急展開。

東京の朝を迎え、母の携帯を鳴らすも、出ない。
きっと眠ってるんだろう。
少し不安に思いながら、新幹線で取って返してきながら、
車中、本を開いても、iPodに耳を傾けても、
すぐに母の事が頭の中をぐるぐる。

こうしている間も、痛みに苦しんでいるであろう母。
もう、何日持つかわからない。
なのに、私は、出張なんかに行って、
このまままだ仕事に戻ろうとしている。
母をなんとか家に帰す事は出来ないものか?
たとえ1分1秒でも、母親の側にいるべきではないのだろうか?
そんな思いが、頭の中をぐるぐる。

新大阪に着いて、病院に電話。
母の無事を確認するが、Y看護師は、すぐにでも病院に来ますか?
みたいな勢い。
でも、私は会社へ。
Y看護師から、在宅看護のF看護師が見舞いにきてくれたことを聞き、
F看護師に電話。
とにかく、救いが欲しくて、
とにかく、何か出来る事を知りたくて。
電話しながら、ふと、母を家に帰すことはできないのか?
そう思って、今日、姿を見てくれたF看護師の意見を問う。

やはり、かなり困難ではないかとの見立て。

私は、会社に戻って、本当はあさってまで手が放せないはずの
物件を、後輩に託し、直属上司にも報告をし、
たった今から休みに入る事を宣言して、
また、諸々お願い事をして、会社を出ました。

病院。
母は、電話の声ほどには疲弊していなく、
でも、相変わらずの虚ろな視線で、
A医師から、胸水を抜くためのチューブを取り付けられていた。
その処理が終わったところで、休みに入った事を告げた。
虚ろな瞳の母と話をして、帰りたいかと問うと、
帰りたいという。
Y看護師にそれを告げると、早速A医師がやってきて、
「では、これからいったん帰って、様子を見てから、
明日かあさって、正式に退院をするか、
明日の午後まで、病院で様子を見て、それから退院するか、
どうします?」
すると母は、今日出たいという。
「どうして急に帰ろうと思ったんですか?」
「この子が休みを取ったっていうから・・・」

そんなわけで、事態は急転して、帰宅する事になりました。
従姉妹のHさんもちょうど来てくれていたので、
荷物やら、母を動かすことやら、何かと手伝ってもらい、
母を車に乗せて帰宅。家では、2階に連れて上げるために、
従姉妹の息子のTちゃんが呼び出され、彼が抱えて連れ上がってくれた。みんな、ありがとう!

自分のベッドに戻った母の表情は、一気に生気を取り戻した。
間もなく、在宅のF看護師が、そしてS院長が来てくださり、
今夜の事、そして今後の事を打ち合わせ。
母は、もう、病院には戻らないという。
今夜、そして明日の午後、
ひどい痛みや苦痛がなければ、希望通りにできるだろう。

痛み緩和は、皮下注射の箱を取り付けたままで、
その操作の仕方をレクチャーされた私の責任になる。

とにもかくにも、本来の希望通りに家に戻れた。
ただ、それでも、母は、命の終わりを先生にせがんだ。