命。

母は、病院のA医師に自分の命を預けたのに、
思うようにしてくれないとこぼす。
S医師にも同じ事を言って、それは出来ないと叱られる。
当然、今の日本では、安楽死など認められていない。
それは殺人になってしまう。

私は、そんな無理を言う母をたしなめつつも、
本当に痛みが辛い母に、
我慢しろ、頑張れ、とは言えないと思ってきた。
母がそう望むなら、早く逝かせて上げたい、
そうも思っていた。
だが。
東京を往復する電車の中で想像した母のいない世界。
それは、途方もなく、辛いものだった。

生きてください、痛くても。

そう思った。
それを伝えなければ、そう思った。

S医師に無理をせがむ母に
「生きてくれなければ、私は困る!」
そう言うと、母は、ぼんやりした表情で、
何度もうなづいてくれた。